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PHASE1 始まりの刻

 如月冬夜は癖のない黒髪を靡かせながら月明かりに照らされた深夜の街を駆ける。それは決してランニング等の平和な行動ではない。この日も人に害をなす魔を祓うべくして、魔物を追いかけていた。

 魔物とは高い魔力を有し、異能を使う事の出来る人外の生物である。その中には高い知能を持ち人の生活圏に近づかない魔物も僅かに存在するが、大部分は本能に忠実で生きる糧として魔力を欲し人を襲う魔物であった。この人を襲う魔物を討滅するのも、冬夜達退魔師の仕事の一つだ。

 この日の討滅対象は四足歩行型の狼のような魔物で、かなり機動力の高いタイプの魔物であったが、ただただ魔物が逃げるのを追いかけているのではなく、適度な攻撃により魔物の行動を制限し狩り場へと誘導していた。

「爆ぜよ、氷の魔弾よ」

 冬夜が魔力を左手に収束させ、人族の異能――魔法を発動させる。冬夜の魔法、それは熱量を自在に操る『温度操作能力サーモニクス』。マイナス方向へ熱量を操り氷結の魔弾として放つ。そうして放たれた魔弾は狭い路地へ逃げ込もうとした魔物の行く手を阻むように地面に着弾させ冷気と氷をはらんだ爆発を引き起こす。魔物は爆発の衝撃によろめきながらも走り出す。
 冬夜は仲間との打ち合わせ通りに状況が進む事に、ついつい口元が緩む。油断禁物と気を引き締めて、作戦従い公園への誘引に集中する。

 今現在、冬夜が魔物を追い込んでいるのは、実の所本来の作戦とは異なる。今回の討滅依頼の獲物が最近天川市で噂になっている通り魔だと想定して、本来は逃げ惑いながら目標地点に誘い込むつもりでいたのだが、どうやら今回の魔物は違ったらしい。この魔物は一般人にとっては十分脅威なのだろうけど、退魔師として幼い頃から鍛えられてきた冬夜達にとっては脅威にはならない。その証拠に魔力の発露による威嚇のみで逃げ出した。対峙した時に感じた魔力から考えても弱い部類に入る魔物であるが、魔力による威圧だけで逃げ出すとは冬夜達も想定外だったため、作戦を変更して今回の追走劇に発展したという訳だ。

 そうして巧みに行動を妨害しながら公園まで魔物を追い込む。公園は深夜とはいえ、人一人おらず静まり返っていた。これは仲間が予め張っていた結界魔法の効力だ。本来魔法とは一人一人異なる異能であるが、体系化され訓練次第で誰でも使える魔法――法術の一種“人払いの結界”である。
 人の気配のない公園という異常な状況に気付く事のなく魔物は生存本能のままに目標地点へと誘導される。隠蔽され魔力を微弱にしか感じることの出来ない魔法陣の中へと。

「ナイスだ、冬夜! 紫電の枷よ、彼の者を捕らえよ“ライトニング・バインド”」

 魔物が魔法陣へと進入した刹那、声を発したのは冬夜の仲間。冬夜の幼馴染で、同じく退魔師の家系に生まれた『電撃使いライトニング・サモナー』藤堂啓介であった。
 啓介の魔力に反応して、淡い紫色の光を発しながら魔法陣が起動する。魔法陣から紫電の枷が現れ魔物を捉える。この魔法はただ対象を捉えるだけではなく、捉えた対象を電撃により麻痺スタンさせもがく動きすら封じることが出来る。案の定、今回の魔物も麻痺して動きが止まっていた。
 魔法陣の起動を確認した直後、冬夜は次の行動を起こしていた。家の蔵から持参した頑丈さだけが取り柄の無銘の刀を抜き放ち魔力を集中させ始めていたのだ。刀に氷結の魔力が宿り、冷気が吹き荒れる。

「一撃で決めろよ、冬夜!」
「ああ……氷刃アイスエッジ“飛燕閃”!」

 ライトニングバインドの効力圏へと入らないよう、高威力な間接攻撃を選択する。飛燕閃、それは飛翔する斬撃により遠距離にいる対象を斬り裂く強力な技であるが、今のは冬夜の異能により氷結の魔力が付加され、更に鋭さを増し強化されている。高速で飛翔する氷結の魔力刃は魔物の胴体をバターのように斬り裂き両断する。魔物を両断したとはいえ、その血飛沫が舞う事はない。それは胴体の断面が魔力刃の通過する瞬間に凍り尽き、やがて全てを凍り付かせてしまうからだ。
 麻痺していた魔物は断末魔を上げる事もなく断面から凍り付く。そして冬夜が刀を鞘に納めると、崩れ去り跡も残さずに消滅してしまった。魔力を用いる戦闘において、その生命を散らした者の末路は消滅である。その為、今回の魔物も消滅してしまったのだ。
 魔力の痕跡を解析する法術も存在するが、一般的な法術ではなくその使い手はあまり多くはない。

 魔物の消滅を確認した冬夜達は依頼の達成を喜び合っていた。

「やったな。流石、決める所はしっかりやってくれるよな」
「まあな。仕留めそこなって、また逃げられたら面倒だしな」

 二人はハイタッチし、依頼達成の充足感を味わう。
 この依頼というのは、冬夜達が通う学園で二人が所属している部活――魔法研究同好会に舞い込んだ依頼であった。この部活は建前として『魔法の運用方法について研究する』と言う名目で設立された同好会であるが、実際の活動は何でも屋である。本来は冬夜と啓介の他に二人部員がいるのだが、今日は予定が合わず二人だけで動いていたのだった。
 今回の依頼は、下校時やバイト帰りに被害にあったという生徒からの依頼で、学園の近くに出現する何者かを何とかして欲しいという話だった。被害者は鋭い爪の様な物で傷付けられていたため、天川市で噂になっていた通り魔の凶器と一致し、噂の通り魔の犯行の可能性があると警戒していたが、結果的にその警戒は徒労に終わった。もし本物の通り魔であったら、たった二人では戦力不足だったかもしれない。でも退魔師として育てられた二人には、この依頼を放置することは出来なかった。それで戦力不足は否めなかったが、作戦を立てて討伐に乗り出したという訳だ。
 互いの家を通した正規の依頼ではないから報酬は出ない。敢えて言うなら、依頼者の「ありがとう」の言葉が報酬である。それでも、魔法研究同好会に偶に入る討伐依頼は実戦経験を積める貴重な依頼であった。そう言う訳で全くメリットがないというモノでもないのだ。

 お互いの状況を確認し合い、互いに怪我がないことが分かると啓介が帰宅を提案する。

「さてと、明日も学校あるし、帰ってさっさと寝ようぜ」
「ああ。そういや明日は全員部室に集合って、京花さんからメール着てたな。何すると思う?」
「あ~、俺にもそんなメール着てたな……また何かの思い付いた魔法の実験とかだったりしてな」

 啓介は冗談めかして、そう言ってはいるが内心現実になりませんようにと祈っていた。冬夜はというと、明日を想像して早くもげんなりしていた。

 冬夜と啓介の幼馴染二人組は、依頼を達成できた充実感とは裏腹に明日の放課後の平穏を祈りげんなりしながら帰路へと着いたのだった。


◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆


 冬夜達の依頼遂行の二日前。
 ――リーベルタース、神族の勢力圏『エザフォース』と魔族の勢力圏『ウラノース』の境界付近――

 人が隠れる事のできる岩の多く岩石砂漠に近い景観の荒野に、エザフォースを目指して追っ手から逃げようとしている三人がいた。一人は魔族の男性、一人は神族の女性、もう一人は二人の子供であろうハーフの少女。長い銀髪を風に揺らしながら走る少女――彼女の名前はリア・アークライト。迫り来る追っ手は彼女を狙っていた。魔族の父親から受け継いだ特殊な魔術を欲しているのだった。

 神族と魔族。二つの種族は時代を遡ると、その起源は同じエルフ族である。時が経ちエルフ族は自然と調和を重んじる『ハイエルフ』と、純粋に強い力を欲する『ダークエルフ』に分かれた。
 『ハイエルフ』は、その自然と調和を重んじる性質から精霊と対話できるようになり、精霊と契約し精霊の力を借りる精霊魔法を使えるようになった。更には元々エルフ族が使えた回復・強化・防御に特化した異能は、異能の存在が一般に広まっていなかった頃の人族にとっては正に神の御業であったために、いつしかそれは神術と呼ばれるようになる。そして神術を使うハイエルフは『神族』と呼ばれるようになったのだ。
 一方、『ダークエルフ』は、より強い力を求めて高い魔力を有する魔物に目を付ける。そして異種姦を繰り返し、その魔力を強めていった。その過程で多種多様な容姿と固有の異能――魔術を持つ部族が生まれ、その末裔が『魔族』と呼ばれるようになったのだ。

 閑話休題。
 三人はエザフォースに向けて走っていたが、少しずつリアが遅れだす。それも当然である。何の訓練も受けていない16歳の少女が追われているという状況に耐えられるはずもなく、徐々に精神的に追い詰められていたのだ。

「パパ、ママ……奴らは私を狙ってるんだよね。だったら私を置いて逃げて! 私がいたら逃げ切れないよ……」

 岩陰に身を隠し、身体を休めながらそう言う。
 リアは自分が足手まといだという事を嫌と言うほど分かっていた。これまで生きてきた16年で幾度となく襲撃され、その度に両親に助けられてきた。二人だけなら撃退もできるのだろうけど、自分を守るために最低限の反撃しかせずに逃げ続けた。
 最近はエザフォースで暮らしていたため平穏無事に過ごせていたが、幼い頃から可愛がってくれた叔父さんからパーティーの招待状が届き、それに参加したいとわがままを言ってしまったのが、今回の襲撃に繋がってしまった。
 そんな自責の念の囚われながら、自分を構わないよう両親に告げる。しかし、我が子の自己犠牲をするような発言を許容するはずがない。

「馬鹿を言うな。リア、お前を此処に置いて行く位なら、俺一人が囮になるっての」
「ハイハイ、貴方も馬鹿な事言ってないで、早く逃げましょう。エザフォースはもう直ぐそこなんだから」
「でも……パパとママは本当は凄く強いって叔父さんが言ってたよ。私が居なければ、あんな奴ら位敵じゃないんでしょう?」

 そこまで言った所でリアに拳骨が落ちた。「痛ーっ」と頭を抱え、涙を滲ませながら父親――ゲイル・アークライトを見上げる。

「もう変なことを考えるのは禁止だ!」
「パパ……うん、ゴメンね」
「さて、話も纏まった事だし、逃げましょうか。ちょっと待ってね。風精よ、“探査せよ”」

 そう言うと、彼女の母親アリス・アークライトの身体が淡い緑の光に包まれる。そう、これが神族のみが行使できる力。契約した精霊の力を借り行使する精霊魔法である。
 数秒後、光は収まる。アリスは難しい顔をしていたが探査の魔法は成功したようだった。

「まずいわね。徐々に包囲されつつあるわ。私に気付かせずに此処まで動けるなんて、かなりの実力を持った魔人が指揮しているみたいね」

 魔人。それは強大な魔力を有する魔族である。一般的な魔族から恐れられながらも尊敬されている存在である。魔人と言っても、その戦闘能力は玉石混交であるが、今回追ってきている集団のリーダーはそれなりに強い力を持つ魔人だと推察される。
 ゲイルはアリスの報告を受けて、目を瞑り思考を始める。逃げ切るには如何すればいいのか、その答えを見つけるために。それでも、この状況において、三人共が揃って窮地を脱する方法はないに等しい。
 僅かな可能性があるとすれば、それは最後の手段である。ゲイルは首に掛けた十字架をモチーフにした首飾りに願いを込めるように握り締める。そして、その首飾りを外し、リアの首へと掛ける。

「これは……?」
「貴方まさか!?」
「戦況は不利だ。アリスお前も分かっているだろう。三人共生き残るにはこれしかないと……。“解放レスト”」

 その呪文を呟いた直後、リアを中心に魔法陣が展開される。

「何これ? どうなるの?」
「リア、良く聞きなさい。今、お前に渡した首飾りは魔法具マジックアイテムだ。一度限りだが、もう一つの世界【コンウェニエンティア】へのゲートを開く事が出来る物だ」
「そうなの!? じゃあ、早く一緒に逃げようよ」

 ゲイルは静かに首を横に振ると、リアの両肩に手を乗せ言い聞かせるように話しかける。

「これは、このゲートは一人用なんだ。だからリア、首飾りを身に着けたお前一人しか通ることは出来ないんだ」
「何それ……? やだよ。三人一緒がじゃないとやだよ」
「リア、ゴメンね。今はこうするしかないの。必ず向かえに行くから」
「今離れても、心はいつも一緒だ。それにパパ達と離れるが、世界の何処かにはパートナーがいる。信頼し合い困難に立ち向かっていけるパートナーが。だから探しなさい。お前なら見つけられるさ。パパとママの娘なんだから」

 リアは二人の真剣な表情を見て、三人無事にこの状況を乗り切るためには、本当にこの手段しかないのだと悟る。いつまでもわがままばかりを言って、二人を心配させてはいけない。そう思って、目に溜まった涙を拭い笑顔を見せる。

 自分が泣いたままで別れたら二人に無駄に心配を掛けてしまう。そんなのは嫌だった。だから今この時だけでも笑顔で。

 リアの笑顔を見た二人は少し安心すると共に、我が娘の成長を嬉しく感じていた。
 そうこうしている内にゲートが起動する。ゲートの起動とともにリアの位相がずれる。今はもう触れることもできない。それでもまだ言葉は届く。

「リア、必ず迎えに行くからな」
「元気でね。頑張るのよ」
「うんっ! でも、あんまり遅いと私が探しに来ちゃうからね」

 二人はリアの言葉に思わず笑みを浮かべる。『さよなら』は言わない。何故なら、これは今生の別れではないからだ。だから『またね』。そんな再会を誓う言葉で別れる。
 そう告げて、手を振っているとゲートは完全に閉じる。一瞬の静寂の後、小石が転がる音が辺りに響く。

「おいおい、リア・アークライトは何処だよ。最後に位置を確認したときには包囲寸前だったはずだ。まさか……」
「魔人、アラン……」

 アラン・クレーデル。黒衣で身を包み、赤い長髪が逆立つ程の強い魔力を放っているその男は魔人の一人である。強硬派の一派の一員で非常に好戦的で危険な人物だ。

「まさか貴方が指揮官?」
「ハッ。そんな訳ねぇだろが。うちの大将のことも知ってるんだろ?」
「そうだよな。見事な包囲作戦だったからお前が出てきて驚いたぜ」
「見下してんじゃねえぞ。セラ、魔力痕を解析しろ!」
「アラン様、既に解析済みです。どうやらゲートを起動したようです」

 セラフィム・アインハルト――セラと呼ばれた魔族の女騎士は、この場に来た直後から解析を始めていたらしく、アランの指示が出るとすぐさま報告した。
 普通、簡単には魔力痕からの解析は出来ないのだが、このセラという魔族はいとも簡単に解析して見せた。彼女こそアランの副官であり、その実力は一介の魔人と比べても遜色ない程であった。

「面倒な事をしてくれたな」
「何の事か分からないな」

 例えバレていたとしても、本当の事を教えてやる義理はないとゲイルは恍けてみせた。ほとんど効果がないのは分かってはいるが、アランの陣営にはゲートが存在しないはずなので、当分の時間は稼げたと安心していた。
 しかし、その予測は裏切られることになる。

「ここに居ても仕方ないな。セラ、ゲートは使えたよな」
「はい、数日後には使えるはずです」
「貴方達の一派にはゲートはないはずよね」
「ああー。公式にはそういうことになってたな。そういや……」

 その言葉に二人は愕然としてしまう。
 ゲートを使わなかったら今此処で捕らえられていた可能性が高かったであろうから、ゲートを使ったのは間違いではなかった。でも、たった数日の猶予しかないのであれば、自分達が迎えに行く前にアラン達がリアの元へと辿り着いてしまう。この事実により、二人は決断を迫られる。アランの上の魔人に報告される前に、この場の魔族達を討滅するという決断を。

「ゲイル、殺るわよ。此処で叩き潰す」
「ああ。お強いのが来る前に片してしまおう」

 アリスとゲイル、二人の身体から魔力が溢れ、はっきりと視認できるほどの濃密な魔力光はやがて眼が眩むほどの閃光となる。光が納まった時、そこには契約の騎士の姿があった。

「それが噂に聞く契約魔術マギアコントラクトゥスの正体って訳か」
「ええ、そうよ。若い魔人とはいえ、私の異名くらいは知ってるんでしょう」
「“銀の閃光”……」
「良く出来ました。でも残念だけど、“さようなら”かな。あの娘がいたから反撃しなかったこと位分かってるんでしょう。さあ踊りなさい!」

 戦いが始まる。その時、岩山の上にもう一人の魔人が姿を現した。この魔人の乱入により戦況は魔人側へと傾く事になる。そして、アリスとゲイルの二人はこの戦いにより行方不明となるのだった。

 一方、リアは無事にもう一つの世界【コンウェニエンティア】に辿り着き、運命の歯車はゆっくりと廻り始めようとしていた。



種族:人族、神族、魔族の三種族が存在する。
魔物:大部分は魔力を糧に人を襲う存在。
異能:魔力を原動力に行使される神秘の力。誰でも使う事が出来るが、その特性・強度は人によって様々である。
魔法:人族の異能。応用の効くバランスの良い力が多い。
神術:神族の異能。防御・強化・回復などの補助に特化する傾向がある。
魔術:魔族の異能。攻撃及び戦闘に役立つ力が多い。
精霊魔法:精霊と契約することにより行使が可能になる神族のみが扱える力。

簡易用語集的な物を載せてみましたが要らないかも知れません。
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